買っちゃったReport

3Dプリンター MAESTRO

最終更新日 2018年02月05日 (コトあるごとに更新中)

購入したものを素直にレポートするシリーズ。
3Dプリンター、MAESTROです。

はじめに

台湾のATLデザインが開発するデルタ型の3Dプリター。これを日本のインタービジネスブリッジ社が国内代理店となりローカライズ、そのための資金をクラウドファンディングで集めて…ということなのでしょうか。

そういった経緯はさておき、3Dプリンターが欲しい、どうせ買うなら後悔しない買い物をしたい、という事でいろいろ探してました。そんな時に見つけたのがこのプリンター。
決して安くはない。でもそれなりに…というか、それ以上に精度は良さそう。開発が海外でも、国内でサポートを受けられるのは有難い。そしてオープンであること。使用するソフトウエアも専用では無くフリーの各種ソフトが使用可能、そしてファームウエアも公開。なかなかいいのではないか… という事でこのファンディングに支援することにしました。

そして6月中旬、届きました。

1st Impression

ずっしりと重い箱で届きました。
注文したのはDIYキット。予想していたとはいえ、予想どおりにバラバラの部品のセットです。組み上がっている状態なのはノズル部と制御基板、LCDモジュールのみ。あとは単純な部品です。物作りが好きとはいえ、ちょっと引いてしまうほどに大量の部品です。
もちろん日本語のマニュアルが付属し、その通りに作っていけば大丈夫です。説明文は簡単なので、イラストを見ながら組み立てていくことになります。
そしてこの組み立てをしっかりこなす事がいかに重要なことか、そして完成後もなんらかの理由で部品を外す事になった時に何を注意すべきか、自分で組み立ててみるとそれがわかるような気がします。結果としてDIYキットを選択して良かったと思います。

組み立て

まずはフレームを組み立てますが、これが非常に重要です。マニュアルにも書かれているとおり、この組み立て精度が造形の精度に影響します。なので、垂直であるべきところは限りなく垂直に、隙間無く取り付ける部分は確実に隙間無く組み立てる必要があります。
しかしこれが困難。どこに誤差があるのかわかりませんが、各部品をきちんと取り付けたつもりでも、それらをさらに組み合わせる段階でどうしても隙間ができてしまいました。確実に組み上げる方法があるならぜひ知りたいです。

組み立てに基本的な工具は付属しています。ネジ類はすべて六角穴のネジで、L型の六角ボールレンチが付属なのでこれで組み立てることができます。しかしL型のレンチは高いトルクが得られるものの、普通のドライバーに比べると使いにくいです。ぜひ別途、普通のドライバーの形をした六角ドライバー(対辺2.5mm)を用意しておく事をおすすめします。

組み立ては15時間弱くらいでしょうか。平日夜、会社から帰宅して夕食後に組み立て作業開始、3日で完了しました。

プリント結果は…

早速プリント。相対的な精度は文句無しに高そうで、造形物の平面には不揃いな凸凹が生じる事は無く、非常に綺麗です。デルタ型故、本体の剛性が高いからでしょうか。この精度の高さには非常に満足です。
また、各垂直軸からノズルへ動きを伝える部分の関節部には球体の金属と磁石が使われ、ガタが全くありません。このアイデアも精度に貢献しているのかと思います。面白いのが、高速にノズル部が動く時、一瞬その磁石部分が浮くのではないかという動きをします。つまり急激な動きのショックを吸収する役目もあるのではないかと思われます。
ベッド部はガラスで、とてもしっかりしています。造形物をベッドからはがす時の工具としてスクレーパーが付属しているのですが、これで表面を強くこするようにしてもキズが付くような事はありません。

そして、まずはテスト素材として提供されている、300mm高さの中空の四角柱をプリントしました。一層あたり0.3mmピッチ、各壁は1層のみで厚さは実測0.4mmです。とても綺麗な四角柱が造形されました。表面はわずかに波を打ってますが、これはデルタ型故の計算誤差が形になっているのでしょうか。プリントの厚さが一層だけですが、さすがに押すとペコペコするものの、簡単に剥がれるような事はなくしっかり密着しています。ちなみに複数層の厚みのあるものをプリントすると、このように表面が波打つというような事はありません。

1層のみのプリント(黒)だと波を打つ。
複数の層があれば波は生じない(青)

プリントされたものの角の拡大が以下。

綺麗にそろってます。

そして積層ピッチ0.05mmでのプリントもやってみました。さすがにプリントには時間がかかりますが、できあがった造形物の表面は積層型3Dプリンタならではの縞模様というよりも、細かなメッシュという雰囲気。個人的には満足できる仕上がりです。

0.2mmピッチ 0.05mmピッチ

 

デルタ型のメリット、デメリット

このプリンタの大きな特徴のひとつが「デルタ型」という事でしょう。
使ってみて感じた、この型のメリットとデメリットを挙げておきます。
まずメリットとしては、本体の剛性がとても高いという事があるかと思います。もちろん高さ方向はデルタ型ではありませんが、少なくともX-Y平面(水平面)については三角形故の高い剛性を保ってくれそうです。実際、プリント時、樹脂を出さないノズル移動時にかなりのスピードで動かしても、その振動が本体に影響することはないようです。そして高さ方向についても非常にしっかりとした構造になっており、フレームを強く押しても形状が歪んだりすることはありません。
このMAESTROも精度を売り物にしていますが、高い精度を出す事ができるのも、デルタ型という方式所以なのかもしれません。
あとは、造形可能なサイズの割には設置面積が小さいという点もメリットかと思います。40cm四方のスペースがあれば置く事ができます(LCDパネル部の突起含まず)。

そしてデメリット。
フレームのサイズが造形サイズに影響するという事。
一般的なX-Y軸を独立駆動するプリンタの場合、X,Y軸の移動量は(理論的には)駆動するモーターの回転角と、その回転を水平移動に変換するベルトを駆動するプーリーの径で決まります(ベルトの伸びとかはとりあえず無視)。しかしデルタ型の場合は、デルタを構成する3本の支柱間の距離が、造形物のサイズに影響します。このため組み立て段階で、とにかく隙間無く、できるだけ高精度にフレームを組み上げる事が必要になってきます。

あと、例えばX軸のみ移動の場合でもひとつのモーターを動かすのではなく3個のモーターが動きます。これらのモーターの回転角のステップの影響によるのもか、例えばX,Y軸に対する平行な壁をプリントしたとしても、縦方向の縞模様が現れます。まぁ、見た目だけの問題です。

補正

前述のとおり、本体の組み立て精度が造形物のサイズ、ひずみに影響を及ぼします。そのため組み立てマニュアルには様々な注意点が記載されていますが、それでも理想どおりに隙間が全く生じない状態で組み立てる事はなかなか難しい、というのが組み立ててみて思った感想です。隙間なく組めているように見えても、0.03mmのシックネスゲージを通すと通ってしまいました。
造形物のサイズを補正する方法も説明されてますが、それはスライダーからノズルのユニットまでのアームの長さを調整することで、全体的な(高さ方向を除く)大きさを調整するもので、形のひずみまでは補正できません。そこで、各スライダーの位置をソフト的に補正することでサイズを補正する事をやってみました。
なお、マニュアルでは垂直の3本の支柱をそれぞれX,Y,Z軸を称してますが、水平軸、垂直軸との混同を防ぐため、以下からはファームウエアのソースに合わせ、3本の支柱を1軸、2軸、3軸と呼ぶ事にします。LCDパネルの左が1軸、右が2軸、奥が3軸です。X軸はLCDパネルを取り付けているアームに平行な方向、それに垂直な軸がY軸、Z軸は高さ方向です。

まずは辺が10cmの正三角形をプリントします。以下のSTLファイルをKISSlicerを使い、回転や移動をせずにgcodeを生成すれば、三角形はベッドの中央に、そして底辺がX軸に平行に(本体が理想状態の場合)プリントされるはずです。

STLファイルのダウンロード


そのプリントされた三角形の各辺の長さをノギス等を使って正確に計測します(それぞれの角に各軸の番号がプリントされてます)。

下記の表計算シートをダウンロードし、適当な表計算ソフトで開きます。

計算シート(deltaCollection.xlsx)のダウンロード

三角形の辺を測定した長さ(単位mm)を、シートのB2〜B4のセルに入力します。
その下(B5)に、プリントした時のスライサーのExtrusion Widthの値を入力します。プリント時にはこの幅が単位となるため、正三角形のように鋭角の場合は角の先端まで樹脂を充填することができずに丸まり、ノギスで測定すると原理的に小さく測定されるはずです。それを補正します。
ちなみにE2〜E4はファームウエアのソースに記載されている値です。
補正値は3軸を基準とし、それに対して1,2軸をどれだけずれていることにすればいいか、という値が計算されます。その計算結果がB26〜B29に現れます。この値をファームウエアのソースに書き込みます。
具体的には、まずファームウエアをArduino IDEで開き、Configuration.hタブを選択します。その160行目あたりから、
#define DELTA_TOWER1_X -SIN_60*DELTA_RADIUS
といった記述があるので、ここに各補正値を加算します。例えば1軸Xの補正値が0.27337だったら、
#define DELTA_TOWER1_X -SIN_60*DELTA_RADIUS+0.27337
と記載します。
1,2軸のX,Y軸について記載したらコンパイルし、ファームウエアをプリンタに書き込みます。

その後再度正三角形をプリントし、各辺の長さが(ほぼ)同じになっていればOKです。

なお、プリントする時には上記のとおり、それぞれの角はシャープにならず丸まり、正三角形のように鋭角のものをプリントしてサイズをノギスで計測すると、設計した寸法よりも小さく計測されます。

Extrude径を0.4mmとして正三角形をプリントした場合、設計寸法よりも約0.29mm(*1)小さく計測されます。よってこのSTLファイルをプリントして計測した場合、約99.7mmであればほぼ正確と言えます。

*1 正確には、0.4×(√3 - 1)

買いか?

まぁ、決して安価ではない買い物なので「買いではありません」という事は言いたくないというバイアスはあるでしょうが、個人的には、ハードとしては満足しています。とてもしっかりした剛性のある作りは安心感があり、プリント結果も綺麗です。
ただ、初心者向きと言えるか、と言われれば難点があります。いわゆる専用の統合ソフトを使用するのではなく既存のソフトを使って造形、スライスしていきます。このスライスにはKISSlicerが推奨され、専用の設定ファイルも用意されています。しかしその設定ファイルは積層ピッチが0.2mmのものしか無く、0.05mmピッチを売りにするのであれば、せめて0.05mmピッチの推奨パラメーターを提供してほしいと、個人的には思います。

そういった点を含め、自由に使いこなしたいという人には良いマシンだと思います。


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